2008年3月31日(月)
 

デヴィッド・フィンチャー監督の「ゲーム」を観る。主人公が誕生日に弟からプレゼントされた招待状「ゲーム」、これがそのまま物語だ。自分にとって大切な物は何なのか、究極の状況におかれると地位や権力やお金などは力を持たないことをメッセージに置いている。タイトルとなるのは「ファイトクラブ」と同様にその象徴と捉えられるモチーフで、非現実的な世界を背景に人間の本質的な部分を鋭く突いていることに見終わって気付かされた。テーマは結構哲学的だ。現実の問題を夢の中で処理する方法も主人公のトラウマや弱みを繰り返し用いることも、人間の抑制と葛藤の描写に最適なシナリオ要素である。またこの脚本もユニークで、何かに期待して見ているとストーリーの展開には裏切られた感覚が生まれてがっかりするのかもしれないが、おそらく騙された気分でも真剣に浸った方が面白いだろう。最初は胡散臭くて嫌な印象でも、マイケル・ダグラス演じる主人公に次第に感情移入をしていきながら、やがて爽快な解決となるからだ。ある意味で人を食ったような印象もあれど、それなりに心地良いものだから不思議に納得。この映画も「ファイトクラブ」も細かいディテールや、つじつまの合わない説明はフィンチャー作品では良くある事態としてどうでもいい、所詮そこに突っ込みを入れても無意味なのだった。一貫したシナリオ構成のバランスがフィンチャーの魅力だと感じる。中でも秀逸なのはダークな映像感覚とイメージ表現、それにキャスティング、シーンそれぞれが多くの見せ場を作っている。そしてポイントは映画だからやはり楽しめないと、といった作風も挙げられる。観客が作品の独特なシチュエーションに入り込んで役者達と同じように感じ取ることが醍醐味となり、やがて肩の力が抜ける結末の具合がまた巧妙で例えばスポーツの後にも似た感じだ。さて自分にとってのフィンチャー映画視聴シリーズはこの辺りでひとまず休止の宣言。


2008年3月22日(土)
 

シャルドネを飲む。白ワインは何年もの間で飲むワインの1割に満たない頻度であって、イメージとして抱く軽いというだけの存在ではない深さを実感した。大よそは赤よりも酸味が強くポリフェノールも少ない性質だからパンチのある肉料理には合わないし、長期熟成やデキャンタージュにも向かない辺りはそれなりに理解していても何しろバリエーションを実際に試した経験値が低すぎる。今日のワインはカリフォルニアのカレラ。まずプラスチックのようなアロマからブーケと呼ばれる柔らかい香りの変化が特徴的でいい感じ。味わいは辛口ミディアムボディのしっかりとした美味しさが楽しめた。この銘柄には前回のピノ・ノワール(→2007.8.23)と同様にコストパフォーマンスを含めて感心させられる。シャルドネに関しては定番的に世界万国で生産されている品種だがここ数年でのアメリカ産の評価はフランスに劣らずかなり高い様子だ。しかしながら未だにその最高峰に君臨するのは「モンラッシュ」。あるウェブショップでの現状価格は何と50万円以上と群を抜いている。コート・ド・ボーヌ地区のグラン・クリュとして頂点に「モンラッシュ」、その次に「シュバリエ・モンラッシュ」と「バタール・モンラッシュ」、その下に「クリオ・バタール・モンラッシュ」「ビアンヴニュ・モンラッシュ」と5銘柄。またプルミエ・クリュのランクに「ピュリニー・モンラッシュ・レ・ピュセル」「シャサーニュ・モンラッシュ・モルジョ」等があり、村ランクに「ピュリニー・モンラッシュ」「シャサーニュ・モンラッシュ・」などと続いてわかり難い。更にややこしいのは「モンラッシュ」と「バタール・モンラッシュ」は「ピュリニー・モンラッシュ」と「シャサーニュ・モンラッシュ・」の両村にまたがるために名乗れるなどなど。とりあえず白ワインのジャンルにおいての自分は今日ようやくその一歩を踏み始めたという初心者クラスだから、この王者モンラッシュを語れるレベルではないのだけれど。


2008年3月20日(木)
 

昨日の時点で漠然と計画したのは開催中のジョイフル・チューリップイベントを兼ねてビルウォッチングに丸の内界隈へ行く今日。昼過ぎに起きると終日止みそうもない雨が降っていたけれど、天気をお構いなしに実行するのが私の性分だった。東京駅南口で下車し、まず「オアゾ」へ入る。1階フロアをざっと眺めて、入り口付近の広場で行われていたクラシックのミニコンサートを素通りしパンフ類をもらって地下へ出た。東京駅を中心に各所へ繋がりアクセス便利になった地下通路から「新丸ビル」へ。吹き抜けのエントランスはアールデコ風で格調高いイメージだが、2階から先のショッピングゾーンの居住性があまり良くない。150もの商業店舗が集まっているだけに狭く、オフィスと一般を分けている故か一方通行もある窮屈な印象を受けた。地上に出て道路工事中のため回り道をして「丸ビル」へ行く。1階部分は随所にアートワークを施したスペース作りが個性的で開放感を感じる。H.P.フランスを挨拶がてら見に行ってフロアガイドをもらってビルを出た。ハトバス乗り場前を通り銀座方面へ歩くと右側に大規模なレストラン2つが目を引く知らないビル、入ってみた。この「東京ビルTOKIA」は、食と音楽と美という目的でレストランやバーが集積した施設。森田恭通デザインによる通路演出は良いとして、やはり店舗も通路も小さく地下連絡道に連接しているバーやカフェの居心地はどうなのかと思う。そのB1F一角に高円寺の割とお気に入りのカフェ「Planet 3rd」も出店していたがお客はほとんどいなかった。高円寺店は今年1月に閉店したそうだ。有楽町へ行くために「東京国際フォーラム」の中を通る。完成した当初に訪れたイメージと変わらず気持ちの良い空間だ。続いて有楽町駅を横切り「イトシア」へ。ウェブでチェックしたエスプレッソカフェ「illy」へ入れば店内は狭く、加えて最近全席が禁煙になっていたのに超がっかり。スタッフに付近の喫煙エリアを尋ねるものの知らないとのお応え。ここは中央区、歩き煙草禁止で先頭を切った有名な区域である。探す時間はムダと感じ、とりあえず25周年アニバーサル「プランタン銀座」を少し覗いて「伊東屋」へ。お買い物メルシー券を使い切るためにラベル等を購入して、受付の女性に喫煙場所を質問。教えていただいたのは何と「ブルガリ」「シャネル」「カルティエ」「ルイ・ヴィトン」が並ぶ銀座2丁目交差点のブルガリ側。雨も小降りになってリッチ景観での路上喫煙は何とも爽快だった。この後松屋の食品売り場を覗くと「チーズ王国」が入っていたので2種類を購入、そのまま地下鉄銀座線に乗って中野へ帰る。4時に家を出て帰宅したのが8時半。土地感をある程度知っていた事と買い物目的でない事からだろう、なかなかロスのない時間配分と言えるが味気はない、1人で行く海外旅行と似たようなロケハン、マップ収集的行動になっていた。


2008年3月15日(土)
 

下井草に建つ集合住宅の「ラビリンス」を見に行く。きっかけは今日、依頼を受けた1件の仕事の話からである。リフォームを行う建築現場の途中工程における記録写真から、クライアントに完成予定イメージを伝えるための画像加工をする業務。写真を見ながら、この壁や柱を削除して〜、畳を延長させて〜、天井はこの流れで想像で〜等の具体的な説明を受けている間に混乱してきて、まるでエッシャーなどと言い合った事で思い出したのが、以前から一度は見てみたいと頭の隅にあったこの建物だった。ロケーションは新青梅街道沿い、1989年に早川邦彦建築研究室による設計。中庭的な中央の共有スペースから階段が立体的に交差して各住居へ繋がっている。5階建ての2棟から構成される世帯数は1階と2階と3階が6戸、4階と5階が2戸の全22戸。ロッテルダムのキューブハウスを思い出す。完成当時はコンセプトも合わせインパクトがあっただろうが、今ここに立って眺めてみると意外にマトモな印象だ。パステルトーンの軽快なイメージが年季のせいか少々弱い感じもする。その場所から一戸建てが並ぶ住宅地を南下して下井草の駅前を通り、西武新宿線と平行して井荻まで歩いて環八沿いの「マルキ&レオニダス井荻店」へ行く。こちらは山梨県勝沼の「まるきワイナリー」の東京営業所として、自社ワインに加えて老舗ベルギーチョコレート「レオニダス」の商品を販売している。まるき葡萄酒株式会社は1891年に創業した現存する日本最古のワイン醸造所が前身であるそう。チョコレートを買った後駅前のピーコックを覗いて人通りの少ない小規模な商店街のコーヒー専門店で休憩をする。西武新宿線に乗って野方駅下車。今夜のワインや食材の買い物の一環でメキシカン料理に使用するためのサルサソースを求めて輸入食品店へ入った。ここで正に今日ウェブで知ったばかりのテキーラチョコレートを発見。ぜひ味わってみたいと思ったものの今日の所は諦めていた物だった。クエルボのテキーラを中身に使用しアルコール度数は3度、メキシコのチューリン社製で6粒入り360円。何てラッキー、迷わず購入である。直感で行動して3つの願望が叶った今日はいい気分、自分の満足レベルってこんな所だが毎度ながら行動が正解と自讃系。


2008年3月14日(金)
 

久しくなって10年以上も経つ回転すし屋へ入る。阿佐ヶ谷に住んでいた時代での高円寺「桃太郎ずし」がおそらく最後だ。お酒と一品料理のメニューが多彩、リーズナブルで居心地も悪くない、明け方近くまでの営業時間と守備が広い故に何度か通ったもの。今日行った赤羽のお店は地元友人の言う通りバランスの取れた良い印象だった。適度なキャパシティに子供連れのお客も少なくて落ち着いた雰囲気。いただいたのは、お刺身盛り合わせとしてカンパチ、赤身、鯛、鮭、平良貝の5品、鰯、鯵、イクラ、海老、ナイルパーチ風白身魚の5皿と小さいサラダ。アルコールは日本酒1合と焼酎1杯と瓶ビール1本で2人のトータルは2800円だった。カンパチなどは結構レベルが高くて美味しく、どんな味なのかよくわからない物もあれど価格を考えると全くノープロブレム。フリーのお味噌汁とガリだけでもおつまみとしていける。改めてこのシステムを生んだ日本人の素晴らしさを食文化含めて感じさせられた。海外各地では品質やコストパフォーマンスこそマチマチとしても人気は定着した様子だし、アレンジの可能性から捉えるとビジネス展開はアイデア次第だと思う。自分も今更ながら安上がりの飲み屋1件目として今後に利用価値は大と見た。何しろ腹持ちがいい。しかしながら回転ずしどころか普通の寿司屋にも永らく行っていない自分。状況やスタイルを省いた上で今最も訪れてみたいお店の1つ「すきや橋次郎」はあらゆる意味で果てしなく遠いね。


2008年3月8日(土)
 

東武東上線の大山駅で下車。最初の目的は店舗併用住宅「SAK」の建築見学である。線路沿いの歩道に位置するこの建物の特徴は極端に狭い幅とステンレス仕様のメタリックな外装。幅は1.3m〜2.6m、敷地面積は約43平方メートル、建築面積は約35平方メートル、延床面積は約88平方メートルの地上3階建ての細長いフォルム、鋭角に尖った屋根部が細長さを強調している。設計者は石田敏明、板橋区に事務所を置いて界隈の集合住宅や店舗等を多く手がけている様子。一体どんな人が住んでいるのかと関心は湧くところだが、ガラス窓を通して見えた自転車2台から自転車が好きなのだと普通に解釈し軽く10分足らずで現場を去る。次に向かったのは中板橋駅前通りのスーパーマーケット「Yoshiya」。先日1つのワイン銘柄を検索した際に楽天サイトから挙がってきたお店だが、こちらが本店で板橋区を中心に都内で数店舗を展開している。店内にワイン売り場はあるもののホームページに掲載されている写真とは異なり小規模なので、売り場スタッフの方に尋ねてみた。ワイン売り場はここだけ?を始めに別店やインターネット運営の事などを聞く内に、この方の回答が面白い程に素早く明快に出てくるのに感心して質問が増えてしつこい自分。ウェブサイトの写真は近隣の本店セラーであるが、昨年の7月に閉鎖して現在はネット販売専用事務所として使用しているそうだ。そこでワインは買える?の問いには残念ながら不可能との事。しかしここの売り場はスーパーに有りがちなラインナップとはどことなく違った印象、シャンパーニュを含め発砲酒やフランス産に選択のオリジナリティを感じる。今日は珍しいオーストリアワインとローヌワインを購入。中板橋商店街を少し歩き、中板橋駅前を見下ろせる老舗洋菓子店2階の喫茶コーナーへ入る。ひと気のない周辺を眺めながら熱々のブレンドコーヒーで一休みした今日の午後7時前まで、何だか抑揚のない平穏な半日。


2008年3月7日(金)
 

地元でベストのモツ焼き店を覗いてみると満席だったので以前より気になっていた焼き鳥屋へ入る。ここが久々に印象の悪いだけの結果となった。数席のカウンターはほぼ埋まっていたがマスターの「どうぞ」で詰めていただいて席が確保される。壁のハンガーにコートを掛けながら感じた悪材料1つ目は着席するとおしぼりは許せても付き出しが既に出されていた事。ビールをオーダーした後、厨房が忙しそうなのでメニューは隣のお客さんの前から「すみません」と自分で取り寄せ、とりあえず串物3種と野菜2品を注文。カウンターからの供し方は素っ気無いとも違い私から言わせると乱暴。日本酒を頼むと棚に並べられた天井至近の一升瓶をガタガタと動かしながら探している。この音といったら意識的すぎる騒音で、お酒にも宜しくない上に何だかこちらが面倒をお願いしている恐縮を感じてしまう。少し目を逸らしたスキに日本酒はテーブルに置かれていたタイミングも妙だったが、陶器のグラスがビールと同じ点も配慮に欠ける。この日1人のみの見習い風女性スタッフはマスターから強い口調で声高に指図されて不敏な感じ。例え人手不足が異例事情としても、懲りて明日から来ないかもなどと余計な心配をしてしまう位だ。内輪の不具合を客に見せるのは如何なる時でもNGでしょう。この辺りで友人と追加は止めて食べたら他へ行こうと相槌を打つ。料理に関しては全体的に割高で焼き鳥はポーションが小さすぎ、生野菜に添えられた粗塩やソースの無駄な多さが雑で悲しい。結局取り柄が見つからない所だったが野蛮な店主に反してお客側の態度は好ましく灰皿をサッと渡してくれた方、上品に飲んでいる男性2人組などユニークな対比を見た。今後当分は訪れまいと話しながら店を出て先程のモツ焼き店を再び覗くとやはり空席は無いため近くにある第二候補のモツ焼き店へ。訪問2度目となるこちらはとにかく超リーズナブルでそこそこのお味、そしてスタッフの対応がいい。泥酔した常連客がいたけれど、ある意味このような人が来るお店は居心地が良くて安心できる故だろう。今夜は3店を例に、飲食店はこだわりを提供する前にサービス業という心得も自覚するべきと考えた。


2008年3月3日(月)
 

デヴィッド・フィンチャー監督の「ファイト・クラブ」を観る。タイトルから受けた当初は体育会系の人間ドラマを想像していたのだが、そうではないと知ってDVDをレンタル、しかし更に予想もしない映画だった。不眠症が慢性化し苦悩する主人公ジャックが体験する世界。物語構成は大きく3つに分けられる。睾丸癌を装って入会した慰めサークルでの模様、ファイトクラブでの日々、タイラーの存在を知ってからの自己葛藤である。前半は淡々としたジャックのモノローグによる不安定な状況で存在感を導き出し、タイラーの登場から中盤はゲイの愛に行くかと思えば意外な展開に巻き込まれ気が付けば終始映像に釘付けになっていた。この流れが巧妙で稀に見るスピード感と映像センスも新鮮だった。見終わって考えたのは「ファイトクラブ」という象徴に人間の潜在意識や理想を投影しているフィンチャーだが、この取り組みにおいては「ゾディアック」も類似するかもしれない事。後にべたっと迫り、再び見たくなる不気味な心地良さといったニュアンスが自分には適当だろう。一見は相性悪そうでもハマってしまう人間関係のようでもある。錯覚かもしれないものの何だか手元に置いておきたくなるような作品だ。忘れられないシーンも多く至る所に散りばめられたブラックユーモアが効いている。ブラッドピッドのガウンの絵柄、金持ちからエステで採取された脂肪で作った石鹸が金持ちに人気、喧嘩を仕掛けて自分が負ける宿題、クラブの死んだメンバーの名前を皆で連呼、泣くサークル仲間との再会など。しかし最も重要なのはジャックの一人芝居場面の数々に尽きるのが原作所以であろう。そのエドワード・ノートンがとてもいい。物質主義から格闘家への変貌や幻想で暴走する純粋なのか空っぽかの二面人格キャラクターがマッチして演技は見事だ。この映画のパンキッシュな視点と表現において私は、自分にとって価値ある本能の行動は誰も止めさせることができないなどと受けたが、その意味ではデヴィッド・クローネンバーグの「クラッシュ」を思い出した。また非現実的世界観では「シン・シティ」が少し頭に浮かんだ。監督が参考にしたと言われる「時計じかけのオレンジ」は、その暴力シーンの本意が異なると感じたのだが、この辺りは見る側の性格により多様な捉え方になって然りではないだろうか。テロ的一大計画の渦中でありながら脱力タッチのラストも有りだろう。秘密が発覚してから終焉までがスピーディな進行だが、見終わってあれこれと関連付けていく行為もまた楽しいとさせるその辺りがフィンチャーの持ち味なのかもしれない。ただ原作の映像表現化として少々不自然で矛盾の残るディテールに関しては全編に漂う強気な映像ラッシュがそれを問題にさせないのか否かの判断が難しい所だが、これは好き嫌いが個人で分かれるポイントでもあると思った。